自然の恵みに体も心も喜ぶ上山型温泉クアオルト - 上山

 

ドイツ発の健康ウォーキング

すがすがしい朝の空気の中、温泉街に近い花咲山に「ヤッホ!」の声が響き渡りました。こだまがよく聞こえるように、語尾を伸ばさないのが上山式。

毎朝6時50分に始まる早朝ウォーキングは、地元の人も温泉の宿泊客も誰でも自由に参加出来ます。温泉宿の主人を案内役に、地元の自然や健康法について話を聞きながら、約2.6kmのコースを1時間あまりで歩きます。中腹にある神社の境内では、朝日を浴びながら体操し、大声を出してみます。

この日の参加者は常連の市民4人に加えて宿泊客が4人。「上山型温泉クアオルト」を体験しようと名古屋から訪れたグループです。

「クアオルト」はドイツ語で、長期滞在型の健康保養地・療養地を意味します。ドイツでは温泉や海、森林などを利用した自然療法が広く行われており、その治療や予防に適した場所には、厳格な審査基準の下でクアオルトの認証が与えられます。でも、なぜ上山でクアオルトなのでしょう?

そもそも上山とドイツを結び付けたのは郷土出身の歌人、斎藤茂吉です。ドイツ留学中の茂吉がドナウ川源流を訪ねて滞在した縁で、上山市はドナウエッシンゲン市と友好都市の盟約を結んでいます。これを機に2008年、里山や温泉といった地域資源を生かしたクアオルトによる町づくりがスタートしました。

まず取り入れたのが、ミュンヘン大学の教授が提唱する気候性地形療法に基づいたウォーキングです。太陽光や清浄な空気といった気候環境の中で運動して健康増進を図るもので、この療法に有効なコースとして、市内八つのウォーキング・コースが日本で初めてミュンヘン大学の認定を受けました。

クアオルト
上山クアオルトの毎日ウォーキング

市街地に近い里山コースや、標高1000mを超える蔵王高原坊平のコースがあり、高度や傾斜などにより難易度が設定されています。ウォーキングのポイントを一言で言えば、がんばり過ぎないこと。体力に合った歩行速度の目安として、160から自分の年齢を引いた数の心拍数を目標にしてペースを調整し、体温が上がったら上着を脱ぐなどして、体表面を冷たくサラサラに保つよう心掛けます。

このクアオルト事業で特筆すべきは、いつでも、誰でも、一人でも参加出来るウォーキング・メニューが用意されている点です。よほどの悪天候を除いて毎日行われる「毎日ウォーキング」と冒頭の「早朝ウォーキング」の他に、宿泊客がチェックイン前に参加出来る旅行者向け企画もあります。

クナイプ式水治療法
クナイプ式水治療法の設備

「毎日ウォーキング」のコースは日替わりで、専任ガイドと共に2時間から3時間のウォーキングを行います。集合時間に集まれば誰でも参加出来、市民と観光客が一緒にウォーキングを楽しみ、触れ合えるところが大きな魅力になっています。

2013年には延べ1万人余りが参加し、その6割が上山市民でした。市が行った検証では、ウォーキングを実践した市民には、中性脂肪の低下や心肺機能の向上といった身体的な効果に加え、「はつらつ感」などの心理的な効果も認められています。市民の健康増進と観光集客の二つの効果で町を元気にするのが、上山型温泉クアオルトなのです。

温泉町と城下町、宿場町の面影

かみのやま温泉は13年に、開湯555年を迎えました。1458(長禄2)年、月秀という旅の僧が、1羽の鶴が沼地に湧く湯で足の傷を癒やして飛び去るのを見て発見したと伝えられ、それに由来して鶴脛温泉の別名があります。上山には1535(天文4)年に武衛義忠によって上山城が築かれ、その後、奥羽13藩が参勤交代で利用した羽州街道が開かれると、温泉町、城下町、宿場町としてにぎわい、大いに栄えました。

森本家屋敷
森本家屋敷

現在の上山には、湯町、新湯、十日町、高松、河崎、葉山の六つの温泉があり、それらを総称してかみのやま温泉と呼びます。歴史ある湯の町らしく、市内には7軒の共同浴場があります。そのうち最も古い歴史を持つのが下大湯で、現在の建物は昭和32年に建てられたものです。江戸時代の初め、それまで浴場のなかった町方に湯を引いて領民に開放したのが、この下大湯の始まりだといいます。

共同浴場の入浴料は150円。洗髪料の100円を払うと、洗髪券と書かれた札と蛇口のハンドルを渡されます。料金を払った人だけが蛇口を使えるという独特の仕組みになっています。また、上山城のそばや温泉街の一画など5カ所に足湯が設けられているので、温泉街を散策しながら足湯巡りを楽しむのもよいでしょう。

かみのやま温泉
かみのやま温泉

かみのやま温泉発祥の地とされる湯町と新湯を結ぶ仲丁通りには、4軒の武家屋敷が並んでいます。上山城の北西に位置するこの一帯は、藩の要職にあった家臣が居住していた場所です。現存する武家屋敷はいずれも鉤型の曲がり屋に茅葺き屋根という造りで、200年ほど前の建造と推定されています。つい最近まで住まいとして使われていたそうです。道理で建物も庭もよく手入れがされていて、どこか生活の気配を感じさせます。

羽州街道の宿場の面影を残すのは楢下宿です。上山宿を出て江戸へ向かうと次の宿場が楢下宿で、そこから難所の金山峠を越えれば伊達藩に入ります。今はひっそりとした楢下の集落には、脇本陣の滝沢屋や庄内屋、旅籠だった大黒屋の建物が保存されています。

2014年取材(写真/田中勝明 取材/河村智子)

▼山形県 上山市

県南東部に位置し、隣接する山形市、宮城県七ケ宿町との境界に蔵王連峰が連なります。上山藩の城下町であると同時に羽州街道の宿場町として栄え、また上山温泉は室町時代中期に開かれて温泉町としてもにぎわいました。豊かな自然と食、温泉を生かし、ドイツのクアオルト(健康保養地)をモデルにした独自の町づくりに取り入れています。山形新幹線の「かみのやま温泉駅」があり、新幹線開業と同時に駅名が平仮名に変更されて以降、「かみのやま温泉」という平仮名表記が定着しました。
【交通アクセス】
山形新幹線で東京駅からかみのやま温泉駅へ約2時間半。
東北中央道の山形上山ICから市の中心まで約6km。

写真説明

●上山クアオルトの毎日ウォーキング:写真中央の三吉山とその奥の蔵王高原坊平にもクアオルト・コースがあります。「毎日ウォーキング」に参加するには1カ月有効のウォーキング・パスか回数券(4回分)が必要で、料金はどちらも2000円
●クナイプ式水治療法の設備:地元の上山ライオンズクラブが寄贈したもので、地下水にヒジまで浸すことで、持久力、免疫力アップなどの効果があります
●森本家屋敷:森本家は代々、藩主の随伴役を務めていました
●かみのやま温泉:お湯は無色透明、疲労回復や美肌効果があるといいます(撮影協力:はたごの心 橋本屋)


●上山産米を始め、地元の農産物が味わえる「クアオルト弁当」。市内5社が作り、予約販売しています

●楢下宿を流れる金山川に架かる新橋。それまでの木橋がたびたび流失したため、明治初めに西洋の土木技術を導入して架けられた

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