水に恵まれ、金銀糸で華やぐ五里五里の里 - 城陽

地下水と西陣の恩恵で発展した地場産業

京都を代表する伝統工芸の一つ西陣織や、京都祇園祭の山鉾を飾る緞帳がキラキラと輝いているのは、ラメ糸とも呼ばれる金銀糸が使われているためです。この金銀糸の製造で、国内生産量の約8割を占めるのが城陽市を中心とする南山城地域です。

もともとは職人の手で和紙に金箔や銀箔を張り、細長く切ったものを綿や絹の芯糸に巻き付けて作るものでしたが、1960年頃から化学繊維による機械化生産が主流になりました。現在作られているのは、ポリエステルフィルムに銀、もしくはアルミニウムを特殊な技術で付着させ、色彩豊かに着色したものです。機械化で大量生産が可能になったことで、和洋を問わず衣料や装身具、インテリアや生活雑貨の素材などとしてさまざまな分野、用途で金銀糸が使われるようになりました。面白い所では自動車のシートや、商品券等のホログラムの素材として利用されています。

一方で、高級品には現在も和紙に金箔を押して作る伝統的な本金糸がしばしば使われます。本金糸の製作現場を見せてもらうと、和紙に漆を染み込ませ、完全に乾く前に丁寧に拭き取る作業が行われていました。和紙に箔押しする際、漆は接着剤の役割を果たします。漆の乾燥には適度な湿度が必要なのですが、城陽は宇治川と木津川の合流地点で水が豊富であるため、生産に適しています。また、市域の地下には琵琶湖の水量に匹敵するほどの地下水が溜め込まれていると言われ、昔から飲み水以外にもさまざまな用途に活用されてきました。

話は少しそれますが、市内の城陽酒造では1895年創業以来、この地下水を汲み上げて酒造りをしています。南東の青谷エリアは砂利質で、雨が地面に染み込む際に、この砂利が天然のろ過器となって良い軟水を作るのだといいます。また、青谷には20haの梅林が広がり、2~3月にかけ約1万本の白梅が咲き誇り、辺り一面、大きな白布を広げたように白一色となります。

ともあれ、掘ればすぐに水が出るため、箔押しにはうってつけの場所でした。明治の終わりから大正時代にかけて、箔押しや糸撚りの職人らがこの地に集ったことで、地域で一貫して金銀糸を生産出来るようになり城陽は金銀糸の町になりました。また、城陽は京都から五里(約20km)、奈良からも五里の距離だったことから「五里五里の里」と呼ばれます。金銀糸の大消費地である京都の西陣にも比較的近かったため、その発展と共に織物を彩る金銀糸の産地として大いに栄えました。

箔押し


新たなニーズを創造する燦彩糸プロジェクト始動

洋服が一般化し、着物離れが進むと金銀糸の国内需要は冷え込み、長く停滞を続けていますが、その可能性は海外に開かれています。京都金銀糸振興協同組合の家村覺理事長によると、城陽で生産される金銀糸の約7割は主にヨーロッパやアメリカ、中近東方面へ輸出されています。特に中近東では民族衣装用として、きらびやかな日本の金銀糸が好まれているのだといいます。

本金ストラップ
組合が伝統産業としての金銀糸の存在を守り伝えていく一方で、新たな分野を開拓する動きも進行中です。城陽商工会議所が主導する燦彩糸プロジェクトは、和装業界以外の新しい用途開発を模索し2005年に立ち上がった活動です。

「もともと西陣から仕事をもらい、糸に加工し西陣へ返すという仕事を続けて来ましたが、和装業界全体のニーズも落ち込み、10年、20年先には金銀糸が作れないようになるのではないかと職人が本気で考え始めたのがきっかけです」

燦彩糸プロジェクト実行委員長の竹村信行さんは当時をこう振り返ります。加工は得意ですが、これまでユーザーの目に直接触れるようなものを作る機会に恵まれませんでした。材料でしかなかった金銀糸の存在感を商品化によって変えていきたい。プロジェクトには職人たちのそんな思いが込められています。

商品化して売り出すに当たり、金銀糸に燦彩糸というブランド名を与えました。「キラキラ奇麗な糸=城陽の燦彩糸」というイメージ戦略を重ねた末、知名度も徐々に上がってきました。現在は、プロデュース・バイ城陽と銘打って、アクセサリー作家や布地メーカーなど他分野のコラボレーション先に対して、モノ作りの提案や素材提供を行っています。京くみひもの技術で編んだ本金ストラップもそんな中で生まれた商品です。09年に中小企業庁による新たなブランド育成事業「JAPANブランド」に認定されたことで、今後は海外に向けての展開も視野に入れています。

2013年取材(写真/田中勝明 取材/砂山幹博)

▼京都府城陽市

京都市と奈良市のほぼ中間、山城盆地の中央部に位置し、東部丘陵地から木津川が流れる西部地域にかけてなだらかに広がる都市。

写真説明

●箔押し:漆を塗った和紙に一枚一枚金箔を貼り付けていく大石箔押加工所の大石孝さん
●本金ストラップ:京くみひもの伝統工芸士が本金糸100%で組み上げました(城陽商工会議所 TEL.0774-52-6866)
 


●西陣の雅を彩ってきた職人の技は、先端技術との融合により多色化と量産化を実現。衣服はもちろんインテリアや織物、生活雑貨に至るまで、金銀糸の活用分野は広がり続けています

●丹後地方に伝わる伝統的な染織技術「高蔵染」のスニーカーとのコラボレーション事例。大胆な手染め模様に、燦彩糸100%の靴ひもが映えます(城陽商工会議所 TEL.0774-52-6866)

●毎年6~7月にかけて青谷梅林全体で120トンの梅が採れ、その約半分が城州白。収穫された3分の2が城陽酒造に入荷し梅酒になります。「清酒やブランデーなどいろいろ試したが、城州白の風味を最大限生かせる点でベースにはクセのない焼酎甲類を選んだ」と話す城陽酒造の島本稔大社長

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