ものづくりの町が展開する地域ブランド・すみだモダン - 墨田

東京スカイツリー
東京スカイツリーを望む墨田区はものづくりの町

墨田区が取り組む地域ブランド戦略

東京スカイツリー®と共に東京スカイツリータウン®を形成する商業施設東京ソラマチ®。その5階に「産業観光プラザ すみだ まち処」があります。墨田区の特産品などを販売していますが、中央には、「2015年度グッドデザイン賞受賞」と書かれたコーナーが設けられています。置かれているのは、墨田区が立ち上げた地域ブランド「すみだモダン」の認証商品です。

墨田区はスカイツリー誘致の決定を機に、すみだ地域ブランド戦略を立ち上げました。その取り組みの中の一事業が「すみだモダン」で、「あたらしくある。なつかしくある。」の基本コンセプトの下、専門家を審査員に、すみだ発の商品・飲食店メニューの認証をしています。

墨田は面積当たりの工場数では都内一、日本の高度経済成長を支えた町工場がひしめくものづくりの町です。が、ほとんどの事業者は受託製造が中心で、自社商品を持っていません。そこで墨田区は、ブランド認証事業に先立ち、日本を代表するデザイナーやプランナーと、区内の企業が協働で新商品を開発する「ものづくりコラボレーション」をスタートさせました。

クリエーターのアイデアと、高い技術力を持つ墨田のものづくりがタッグを組んだことで、付加価値の高いユニークな商品が生まれ、ものづくりコラボは大成功。その後始まった「すみだモダン」にも、コラボ事業の商品が幾つも認証されました。
 
墨田区では30年前から「小さな博物館(Museum)」「すみだマイスター(Meister)」「工房ショップ(Manufacturing Shop)」の頭文字を取った3M運動等を展開し、ものづくりを後押ししてきました。そうした下地があった上で、スカイツリーで注目が集まる中、満を持して取り組んだ「すみだモダン」は、質の高い商品とあいまって国内外から大きな評価を受けることになりました。

「すみだモダン」の商品部門は、専門家による「すみだブランド認証審査会(審査委員長/宮田亮平東京藝術大学学長)」で選考の上、「すみだ地域ブランド推進協議会」が認証。認証商品は「すみだ まち処」で販売されます。また、墨田区にふるさと納税を行うと、返礼品としてすみだモダンの一部を選ぶことも出来るそうです。一方、飲食店メニューは区民で構成される「すみだブランド区民調査隊」が覆面調査、試食を行った上で同協議会が認証するというミシュランチックな手法を取り入れています。

すみだ まち処
東京ソラマチ®の5階にある「産業観光プラザ すみだ まち処」

「すみだモダン」な現場を訪ねてみると

墨田区北端の八広には、すみだのものづくりを支えてきた町工場が多くあります。「すみだモダン」認証商品「てのひらトング」の製造元・笠原スプリング製作所(笠原克之代表社員)もその一角にあります。

笠原スプリング
笠原スプリング

バネ製造を手掛けて90年近く、その間には朝鮮特需からバブル崩壊まで、山もあれば谷もありました。が、谷を乗り切ったと思った頃、リーマンショックによって取引先の倒産や廃業が相次ぎ、主力製品だった板バネ加工の受注が激減。今まで通りに経営を続けるのは困難になりました。

追い詰められた笠原さんは、墨田区の「ものづくりコラボレーション」に応募。桜の名所として全国的に有名な墨田にちなんで、コラボレーターと区内企業が結成したチーム「墨田Hanamiプロジェクト」に参加しました。花見やピクニックなど、戸外で食事を楽しむためのグッズや食品を開発しようというもので、ここから携帯用の「お皿まな板(㈲チバプラス)」や、昔ドイツ皇帝が狩りに携行したというヤークトブルストのすみだ版(㈱桑原ハム)と共に、笠原スプリングの「てのひらトング」が生まれました。

カフェシュクレ
カフェシュクレ
デザイナーからの提案は、カスタネットぐらいのサイズで女性の手にもつかみやすく、料理を簡単に取り分けられるトング。既存の技術では無理な注文でしたが、これに賭けていた笠原さんは、諦めることなくアイデアを絞り出して試作と改良を重ね、1年半の歳月をかけて完成させました。

結果、「てのひらトング」はマスコミでも紹介され、主力商品に成長。そして笠原さんは第2弾として、木の形をしたフードピック「ツリーピック」を世に送り出しました。今回はクラウドファンディングで資金調達。そのため早くから注目を集める展開となりました。

その笠原スプリング製作所の近所には、ホーロー製品「kaiko」で「すみだモダン」に認証された金属プレス加工の昌栄工業があります。同社はホーローケトルの加工を得意としており、「kaiko」は初めての自社ブランド。「kaiko」シリーズの中でも注目は、三角断面の湯口を持つドリップケトルで、コーヒーを淹れる時に繊細な滴が落ちるように作られています。開発には、墨田区曳舟にある自家焙煎珈琲専門店カフェシュクレ(楡井有子代表取締役)が関わりました。

そのカフェシュクレも「smileシリーズ プレミアムシュクレブレンド」で、「すみだモダン」に認証されています。楡井さんは徹底的に豆にこだわり、100%トレーサビリティーを実現。その中から、最高峰デカフェを使用したノンカフェイン・ブランド「イノセントコーヒー」も生み出しました。また、コラボ事業でボトル入りイノセントコーヒーを出した他、大型焙煎機による専用焙煎所をオープンするなど、最近注目されているサードウエーブ・コーヒー店の旗手として、進化を続けています。

2016年取材(写真/田中勝明 取材/鈴木秀晃)

▼東京都墨田区
東京東部、西の区境は隅田川、東の区境は荒川及び中川と、河川に挟まれた町で、水の郷百選に選ばれています。江戸時代、明暦の大火(振袖火事)で江戸中心部が焼け野原となり、武家屋敷が移転してきた同区南部の本所は、時代劇でおなじみの地名でしょう。関東大震災で区域の大半が焼け、更に東京大空襲でも区内全域が焼失。戦後の1947年に本所区と向島区が合併し現在の墨田区が誕生しました。江戸切子に代表されるガラス器の製造やガラス加工が有名ですが、皮革産業や石鹸産業も盛んで、大正時代には花王、ライオン、資生堂、ミヨシの四大石鹸メーカーが区内にありました。両国地区には大相撲の両国国技館、押上・業平橋地区には自立式鉄塔としては世界一の高さを誇る東京スカイツリーがあり、隅田川を挟んで隣接している浅草と共に、国内外から多くの観光客を引き付けています。
【交通アクセス】
JR総武線、東武鉄道の伊勢崎線と亀戸線、京成電鉄押上線、都営地下鉄の浅草線、新宿線、大江戸線、東京メトロ半蔵門線と8本の鉄道が通っています
国道6号線(水戸街道)、同14号線(京葉道路)、首都高速6号線(向島線)と7号線(小松川線)の他、明治通りや春日通り、蔵前橋通り、清澄通りなどがあります


写真説明

●カフェシュクレ:カフェシュクレのバリスタ高橋由佳さんは「すみだモダン」のケトル「kaico」を使い、ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ2015で優勝しました。カフェシュクレ:墨田区東向島2-31-20/TEL.03-3613-7551

すみだモダン


1列目左:ガラスの硯=2013年認証/尾崎製鏡㈱=サンドブラスト技法でシャープな板ガラスに丸みを持たせた
1列目中:江戸切子「粋と技シリーズ」=2010年認証/㈲ヒロタグラスクラフト =伝統的な江戸切子の手法を赤と黒の現代的なデザインに生かした
1列目右:SPIDRT=2011年認証/㈱ヒロカワ製靴=端材を再利用し、縫い合わせて作られた全く新しいデザインのモデル
2列目左:やさしさ しびれる ニッキ飴=2014年認証/宮川製菓=小さな工房で昔からの製法を生かしながら、モダンな商品を生み出している
2列目中:長命寺桜もち=2012年認証/㈱やまもと=300年近く続く老舗中の老舗だが、現代でも独特な姿と味わいは他に類を見ない
2列目右:言問団子=2012年認証/㈱言問=シンプルさと美しさが、今の時代にもモダンを感じさせる三色団子
3列目左:○典型自転車止め=2013年認証/柴田コンクリート㈱=コンクリートの特徴を生かした今までにないコンクリートグッズ
3列目中:「墨田Hanamiプロジェクト」から生まれた「すみだモダン」。すみだ山椒ヤークトブルスト=2010年認証/㈱桑原ハム | お皿まな板=2011年認証/㈲チバプラス | てのひらトング=2011年認証/笠原スプリング製作所
3列目右:てのひらトング


●まぐろしょうがやき:2013年認証/下町割烹   上総屋(墨田区向島2-2-10/TEL.03-3622-7418)=マグロのスジ肉を使った生姜焼で、ロングセラーの看板メニュー。毎日マグロを築地から大量に仕入れ、店でさばいている上総屋ならではの一品。昼の定食は600円、夜は単品で750円。東京大空襲から奇跡的に焼け残った創業当時(昭和9年)の建物は、石のゴミ箱と共に昭和の下町を感じさせ、居酒屋漫画「ハルの肴」の舞台にもなっています。※すみだモダン飲食店メニュー


●smileシリーズ プレミアムシュクレブレンド:2013年認証/カフェシュクレ自身は「smileシリーズ プレミアムシュクレブレンド」で、「すみだモダン」に認証される一方、昌栄工業のドリップケトル「kaico」開発にも協力しました。この他、最高峰デカフェを使用したノンカフェイン・ブランド「イノセントコーヒー」や、ボトル入りイノセントコーヒーなどのオリジナル商品を手掛けています。


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