讃岐うどん発祥の地はうどん県のど真ん中 - 綾川
讃岐うどん発祥の地でさぬきの夢を味わう
香川県の調査では、観光客が香川を旅行先に選ぶ理由のトップはうどん(43.2%)で、2位の名所旧跡(23.9%)を大きく引き離しています。ちなみに、全国で最もうどん屋が多いのはやはり香川県で、人口10万人当たり約64軒は全国平均の3.4倍に当たります。当然うどんの消費量も抜きん出ており、香川県のうどん用小麦粉の使用量は年間約6万トン、全国使用量の実に23%を占めます。まさに自他共に認める「うどん県」です。
ある統計では、県民1人当たりの年間うどん消費量は約230玉だそうです。取材に協力頂いた地元の皆さんから、「週4か週5でうどんを食べる」と聞いて驚きましたが、この統計を見ると香川県ではごく平均的な回数のようです。
讃岐うどんの歴史には諸説ありますが、一般には綾川町滝宮の出身で、空海の甥にあたる智泉大徳を「うどんの祖」としています。空海から、唐に伝わる麺の打ち方を伝授された智泉が、故郷の両親をこの麺でもてなしたと言われており、これが讃岐うどんのルーツとして定着しています。
ただ、現在に至る香川県の「うどん文化」の始まりは、ずっと時代が下がった1960年代半ばのこと。この頃に香川県独特のセルフサービス方式のうどん専門店が登場してきました。それが88年の瀬戸大橋開通によって、本州から四国へ入る玄関口である香川に、多くの観光客がやって来るようになり、県外にも広がりました。
そして、これに歩調を合わせるかのように、香川県のタウン誌などを中心に讃岐うどんの情報発信が始まりました。これがマスコミの目に留まり、テレビのグルメ番組や、雑誌・書籍などで讃岐うどんの露出が加速。90年代後半からは、うどん屋巡りを目的に香川を訪れる人が急増し、休日になると観光客が有名店に行列を作る光景が見られるようになりました。
もちろん、讃岐うどん発祥の地・綾川町にも人気うどん店が数多くあり、休日になると四国ばかりでなく、関西や山陽から観光客が押し寄せます。綾川にある道の駅「うどん会館」には、年間約30万人の来園者があります。
そんな「うどん県」ですが、実は讃岐うどんの原料となる小麦は90%を輸入に頼っています。そうした状況を打破しようと、香川農業試験場が満を持して送り出したのが「さぬきの夢2009」です。
これは、独特の食感と風味が強く支持されながらも、製麺やゆでている時に切れてしまうことが多く、普及するには至らなかった「さぬきの夢2000」の後継品種で、グルテニン(タンパク質)の改良により、麺の切れが格段に減少。しかも、「2000」の特徴である滑らかさ、もちもち感、麺の風味をそのまま維持し、ダイナミックな弾力性が付加されました。
ここ10年ほどは、香川県の小麦作付面積は約1500haですが、現在は県内産小麦の全てが「さぬきの夢2009」になっています。収穫量ではまだ日本全体の小麦消費量の5%程度しかありませんが、香川県としては今後、讃岐うどんにおける「さぬきの夢」の使用比率を10%にまで伸ばしたいとしています。
手つかずの自然が残る綾川伏流水の恵み
香川県は、ため池が多いことで知られますが、裏を返せば雨が少ないということ。が、実は四国山地に降った大量の雨が、地下水となって瀬戸内海に流れ込んでいる所があります。綾川周辺もそんな場所の一つで、この辺りの地下水は、水質が軟水で極めて良質。讃岐うどんのうまさの秘訣は、この地下水にもあると言われます。
もちろん、水の恵みはうどんが独り占めしているわけではありません。綾川町はまた、おいしい日本酒の酒蔵があることでも知られます。
綾菊酒造は全国新酒鑑評会で13年連続金賞を受賞するなど、醸造技術の高さは折り紙付き。杜氏の国重弘明さんは、杜氏としては全国で初めて「現代の名工」に選ばれた人です。
その綾菊の蔵に入ると、入口近くに水神様が祭られています。蔵の下には枯れることのない綾川の伏流水が引かれた井戸があります。「綾菊を支えているのはこの井戸水。綾川の清流に恵まれたからこそ、ここまでこられた」と蔵元は話しています。
綾川にはもう1社、勇心酒造という蔵元があります。もともとは海寄りの宇多津町にありましたが、1988年に綾川に移転してきました。当初は水が変わることに不安もあったようですが、綾川の伏流水が非常にいい水であったことから、心配は霧消。最近では、伝統的な酒造りとは別に、古代米と綾川伏流水で、美容と健康に配慮した新しいタイプのアルコール飲料を作るなど、新しい挑戦もしています。
その勇心酒造ですが、現在の主力商品は、日本酒から化粧品素材にシフトしています。全く畑違いのように思えますが、米の発酵に関するノウハウを生かした事業展開でした。醸造発酵技術と現代の科学を組み合わせて、勇心酒造独自の技術「日本型バイオ」を生み出し、この技術を用いてお米から機能性素材「ライスパワーエキス」を開発しました。現在、36種類のエキスを開発済み。そのうち「ライスパワーエキスNo11」は厚生労働省から新規効能「皮膚水分保持能の改善」として、医薬部外品の新規有効成分の承認を受けています。それが、化粧品業界からの注目を集め、現在は多くの大手化粧品メーカーに使用されるようになっています。
2015年取材(写真/田中勝明 取材/鈴木秀晃)
1926年開業当時の姿を今にとどめる滝宮駅(近代化産業遺産) |
▼香川県 綾川町
綾川町は香川県のほぼ中央、2006年に綾歌(あやうた)郡の綾上(あやかみ)、綾南(りょうなん)両町が合併して誕生しました。国の重要無形民俗文化財「滝宮の念仏踊」は讃岐国国司だった菅原道真が雨乞いによって讃岐を大干ばつから救ったことを称えて始まりました。また滝宮は讃岐うどん発祥の地と言われ、毎年4月に滝宮天満宮で献麺式が行われます。大正天皇即位の際には、同町山田上の田が大嘗祭に献納する新米を作る主基斎田(すきさいでん)に選ばれました。
【交通アクセス】
高松琴平電気鉄道琴平線の挿頭丘(かざしがおか)、畑田、 陶(すえ)、綾川、滝宮、羽床(はゆか)の6駅があります。
高松自動車道の府中湖スマートICから町役場まで約5分。高松空港からは約20分
●「うどん」と書かれたのれんが出ているだけの隠れた名店「松岡」。限界を超えて作ると質が落ちるから、と毎日決まった数だけ打ちます
●最盛期には待ち時間が最長2時間、車の列が延々2kmも続いたという讃岐うどんの最人気店「山越うどん」。サッカーJ2「カマタマーレ讃岐」のチーム名の由来にもなったメニュー「かまたま」が代名詞
●綾川町には讃岐七富士のうち二つがあります。写真はその一つ堤山(羽床富士)と、「ことでん」こと高松琴平電気鉄道の琴平線。讃岐七富士のもう一つは、高松空港の西約8kmにある高鉢山(綾上富士)で、山の中腹には県下唯一の風穴があります
●龍燈院(明治元年廃寺)の僧侶が菅原道真の御霊を鎮めるため寺の側に社を建てたのが始まりという滝宮天満宮。道真は龍燈院の一角にあった官舎に住んでいました。龍燈院の初代住職は智泉大徳で、滝宮天満宮では毎年4月24日、鷽替え神事と共に智泉大徳を偲んで献麺式が執り行われます。
●創業から200年という歴史の重みを感じさせる綾菊の酒蔵。登録有形文化財に指定されています
●勇心酒造が作る伝統的な日本酒と、最近の主力である化粧品
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