安全と安心を育む果実は、瀬戸内の潮風薫る「レモン谷」から - 尾道
安心・安全「エコレモン」の島
瀬戸内海に浮かぶのどかな島で、ユニークなエコを見つけました。その名も「エコレモン」。
自然界にある天然物由来の農薬だけを最少限の使用回数・量に控えて栽培したレモンです。減農薬栽培だから環境にもやさしく、「丸かじりしても安全・安心」が売り文句。皮ごと食べられるから輪切りをハチミツ漬けにして、そのまま紅茶に入れたりケーキの材料に出来ると評判です。
このエコレモンの栽培に島を挙げて取り組んでいるのが、尾道市瀬戸田町。広島県と愛媛県を結ぶしまなみ海道の中程に位置する生口島と高根島からなる町です。
平均気温は15.6度と暖かく、年間降水量も1100〜1200mmと少量。両島とも島の半分が急傾斜地で占められているため、水はけの良さが求められる柑橘栽培には、絶好の条件を備えています。
「レモンは寒さに弱く、霜が降りるような場所ではうまく育ってくれません。それに風にも弱い。風に当たると表皮に傷が付き黒い斑点が出来る病気になってしまう。だから暖かくても台風が来るような土地は、レモン栽培に適していないんです」
と、生産者の脇本初雄さんは話します。
瀬戸内は大きな台風も来にくいし、海からの温暖な潮風のおかげで、レモン畑がある一帯は無霜地帯になっています。寒さと風に弱いレモンにとって、瀬戸田ほど居心地の良い場所はありません。
そんなわけで、1926（昭和元）年に国産レモンを初めて栽培する場所として瀬戸田が選ばれました。以来、瀬戸田は生産量日本一のレモン栽培地として全国的にも知られるようになります。
国内全体で流通しているレモンはまだ輸入品が多く、国産レモンが占める比率はたったの5%ですが、そのうち35%はこの瀬戸田で作られたレモンです。
レモンの木、再び
国産レモン発祥の地は、生口島の「レモン谷」と呼ばれる柑橘畑地帯です。谷というよりはどちらかというと急な斜面といった趣きですが、レモンの木を始め、みかんなどの柑橘類が実を結んでいました。
レモンの収穫は10月から翌年の5月まで。5月下旬から花を付け始めると、枝の剪定や少量の農薬散布など最低限の防樹をし、有機肥料を与えるとすくすくと育ちます。秋になって大きくなった実から順次収穫します。
豊作も不作もなく比較的収穫は安定しているといいます。良い時でコンテナ一つ1万円で取引されたことから、かつては「レモン成金」という言葉が生まれたほど、瀬戸田はレモン栽培が盛んでした。レモン谷はまさに黄一色に染められていました。
ところが、1964（昭和39）年に国がレモンの貿易自由化に踏み切ると、海外から安価な輸入レモンが国内市場に一気になだれ込み、国産のレモンは大打撃を受けました。
瀬戸田の生産者もこれを機にレモンの木を切って、代わりにみかんなど他の柑橘類の栽培を始めました。一面黄色だったレモン谷は、次第にオレンジ色に変わっていったのです。
「食品の安全性が問われる昨今、レモンでも安全に作られている国産を選ぼうという流れがあるように感じます。消費者も安いレモンでいいと割り切っている人は外国産を選ぶようですが、こだわりを持った消費者は我々のレモンを求めてくださいます」
とはJA三原の宮本悟郎課長。
瀬戸田のエコレモンは外国産の2〜3倍の価格で小売店に並びますが、これが売れているというのです。これまでは十分供給出来るだけのレモンがなかったこともあり、宣伝をしませんでしたが、安全なレモンを求めるお客さんがこのところ増えていることで、JAでも対応を急いでいます。
「現在、レモンはJAの奨励品種。生産者にはレモンの苗木を植えて作付け面積を増やすよう呼び掛けています」
と宮本課長は話します。
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| クリスマスとバレンタインデー商戦向けに開発された変わり型レモン |
レモン谷では再びレモン栽培を行う生産者が増え、レモンの木も計画的に毎年増えています。現在の生産量は年間で1500トン。
レモン谷にも、みかんのオレンジ色に混じって、一時は消えてしまった黄色い景色が戻りつつあります。
2008年取材（写真／田中勝明 取材／砂山幹博）
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